国際個別化医療学会誌

国際個別化医療学会誌
巻頭言
 現代医学は人類に大きな恩恵をもたらしている。ラ・メトリの「人間機械論」により端を発した臓器別医学は,病気の原因と治療に素晴らしい発展をもたらした一方で,人間全体を見失った感がある。これを一つの反省点として統合医学が提唱されてきた。ここには東洋的宇宙観・人間観と西洋のそれとの統合がある。それは精神と肉体との統合的思想でもある。そのために,洋の東西を問わず伝統的な医学・医療の統合が試みられてきた。
 しかし,このような統合的思考も黄昏を迎えつつある。なぜならそこには統合をもたらす方法論が存在しなかったからである。
 ミネルヴァの梟は黄昏がやってくるとはじめて飛びはじめる(G.W.F.ヘーゲル「法の哲学」)。かの西田幾多郎は西洋哲学に対峙し東洋の思想的伝統を踏まえて,それまでに無い新しい展望を拓いていったことを想起する。
 私たちは統合医学が純粋に「個別医学・個別医療」であることを,本学会の設立当初から主張してきた。この根本的な考えが統合医学の新たな創造の可能性を示唆している。それは「Personalized Medicine」そのものである。
 パーソナライズド・メディシンとは,バイオテクノロジーに基づいた患者の個別診断と,治療に影響を及ぼす環境要因を考慮に入れた上で,多くの医療資源の中から個々人に対応した治療法を抽出し提供するものである。個別医療の基幹となる要素は,薬理ゲノム学やバイオマーカーのみならず,ライフスタイルや生活歴,人生観,現在の身体的問題など,患者固有の情報を浮き彫りにした個々人の医学的ポートレイトにある。
 薬理ゲノム学やゲノム医学そしてプロテオミクスなど個別医療を実現する上でのトランスレーショナル・リサーチは急速に進歩を遂げているが,それらをいかに臨床現場で活用し,患者に治療を提供していくかという手法や技術についての議論や研究の場が,パーソナライズド・メディシンの進展に今後最も寄与する要素になっていくと考えている。
 当学会が本年度よりELSEVIER社から出版する「Personalized Medicine Universe」は,最高のクオリティの論文を発行することを目指し,臨床応用におけるパーソナライズド・メディシンの確立と,更なる発展を探求していくものである。
 インターナショナルな英語版/日本語版の,専門家によって検証された学術誌である「Personalized Medicine Universe」は,パーソナライズド・メディシンのアプローチに対して理解を深め,研究と臨床実践を加速するために,パーソナライズド・メディシンの目的や臨床情報を探求する研究者,臨床医だけでなく医療専門家,医療機関,患者のために発行していくのが目的である。
 本学会が開催する学術集会が盛会裏に終わり,また,新しく発刊する「Personalized Medicine Universe」にも多くの論文を寄せられることを期待してやまない。
一般社団法人 国際統合医学会(ISIM)
理事長 阿部 博幸
戻る